辻村七子/著・集英社オレンジ文庫/刊
青い瞳の瞬きひとつで世界を完全に止めてしまえる美貌の宝石商・リチャードと、大学を卒業して日本を脱出スリランカで宝石商見習い(仮)生活を始めた中田正義の物語、第7集。
この第7集から第2部スタート。で、何が変わったかっていうと、これまでは基本的に正義の日常にリチャードが入ってきたっていう形だったのが、どうやらこれからは正義がリチャードの日常に入っていく、って形になるみたい。正義の目線で語られていくのは同じなんだけどね。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
まあ、これは自然な流れでしょう。週末アルバイトにすぎなかった大学生の正義が、宝石商っていうリチャードが暮らしている世界に、見習いとはいえ本格的に足を踏み込んだわけだから。
第1部の中では第4集『導きのラピスラズリ』がそういう感じのポジションだったけどね。正義がリチャードを追っかけてイギリスまで乗り込んで、リチャードを絶望の淵にたたき込んでくれちゃったお家騒動を結果的に撃破しちゃったヤツ。
あれはまさに、リチャードの暮らす世界に正義が突撃した内容だったわけだけど、第2部はどうやらその線でいきそうな感じですわ。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
で、この辺からちょこっとネタバレ。
いや、キッツイよなー正義。いきなり目の前で、エロボケクソジジイに思いっきりセクハラかまされてるリチャードを見せつけられて。
リチャード本人が自分の容姿を疎ましく思っていることも、疎ましく思う理由が容姿のせいで周りから人間扱いされてこなかったからだってことも、正義も一応わかってはいたんだけれども。
そんでもいきなり突きつけられたリチャードの「日常」がコレで、しかもいまの自分がリチャードの足を引っぱる存在でしかないっていうことまで突きつけられて、そりゃーもうキッツイなんてもんじゃないよねえ。
なんかもう、正義の気持ちを考えると、今回のお話はあんまり突っ込まずにそっとしておいてあげたほうがいい気がする。リチャードも、かなーりしんどかっただろうしねえ。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
ただまあ、今回の新キャラ登場で、今後リチャードの過去話がいっぱいほじくり返されてきそうな感じではあるよね。
第6集に収録されてた『さすらいのコンクパール』で、お客さまの優菜さんが香港のアシスタントの話を持ち出したとき、そこにまったくひっかからずにさらっと流れていったので、逆にあーコレは後からなんか出てきそうとは思ったんだけど、こういう強烈な形で出てきてくれるとは。
しっかし、ヴィンスくんもかなーりこじれてるよねえ。それもやっぱり、リチャードが好き過ぎてこじらせちまったぜチクショー的な。リチャードのほうも、なんかやらかしたっぽいし。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
リチャードの香港時代っていうと、第5集に収録されてた『ジルコンの尊厳』以降の話だよね。
自分が信じていたものすべてに裏切られたとしか思えない状況にたたき落とされてやさぐれまくってたリチャードが、シャウル師匠との出会いによって宝石商っていう身の置きどころをようやく得たっぽい、そういう感じの時期。
身の置きどころをようやく得たって言っても、問題は継続中だし気持ちのほうもまだやさぐれ中だしっていうリチャードだったから、たぶん本人にも余裕がなかったんだろうなーとは思うけど。ヴィンスにいったいナニをやらかしたんだ、リチャードってば。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
それにオクタヴィア嬢か。なんかこっちは、ヴィンスよりもさらにさらにこじれてる感じ。リチャードの婚約者だったデボラも絡んでるみたいだし、なんかこれからの展開を思うと、リチャードの背中をぽんぽんと叩いて、うん、まあ、頑張れよ、って言ってあげたくなるような……って、そこは正義がまたなんとかしてくれるんだろうと期待するわけだけど。
正義も、いまんとこ宝石商見習い(仮)って状態で、まだ国家公務員は諦めてないみたいだし、どうするんだろうねえ。って、いやきみはもうそこへ踏み込んじゃった以上、そのままばく進するしかないでしょ、って読者みんな思ってる気がしないでもないけど。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
正義はどこへ、どんなふうに着地するだろうね。
なんかリチャードはこのまんま、エトランジェのまんま一生どこにも着地しない人生かなって思うんだけど、正義は着地するとしか思えないんだよね。そんで、宝石商っていう肩書きひとつでずっと旅の空に生きるリチャードを、いつでも迎えてあげるんだろうな、って。
だいたい正義、きみは生まれたときから「宝石店」じゃん。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
正義の誕生日の5月14日って「宝石店」なんだよね。なんのこっちゃ、ってたいがいの人は思うだろうけど。私はコレに気がついたとき、大笑いしちゃった。
つまり、占星学の話です。いわゆる星座占いのもっともっと詳細なヤツね。生年月日と生まれた時間・場所から個人の星図(ホロスコープチャート)を作成して、その人の人生傾向や対策を読み取るっていう。
で、占星学の1年はおひつじ座1度に始まりうお座30度で終わる、ぐるっと1周12星座360度の天球で示されるんだけど、その360度すべての度数ひとつひとつに意味があるのね。
そしてホロスコープチャートで使用する主な10天体のうち、太陽は1年をかけて天球を廻るので、毎年だいたい同じ位置にやってくるんだ。だから誕生日がわかれば、その人が生まれたとき太陽が天球のどの位置、具体的に何座の何度にあったのか、ほぼ特定できる。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
5月14日生まれの人は、おうし座23度か24度に太陽がある(年によって1度前後の誤差あり)。そんでもって、おうし座23度という度数の持つ意味は「A jewelry shop.」 ほら、もうホンットにそのまんま「宝石店」でしょ。
さらに言うと、ホロスコープ上の太陽という天体は、その人の人生目的、つまり自分がこうありたいと望む姿を示してるのね。だから正義の望むこうありたい姿って、最初から「宝石店」なんだってば。
しかもこのおうし座23度「宝石店」の解釈は、自分の五感で受け取った美しいもの美味しいもの楽しいことを自分自身でコツコツと具体的な形にまで磨き上げ、そうやって作り上げた自分だけの宝石を並べるお店、なんだよ。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
ちなみにリチャードの誕生日は12月24日。この日に生まれた人の太陽は、やぎ座の1度か2度にある。で、やぎ座2度という度数が持つ意味は「Three stained-glass, one damaged by bombardment.」 ちょっと長いよ。でも、解釈を知ると大笑い間違いナシ。
この文章を直訳すると「3つのステンドグラス、1つは爆撃を受けて破損している」みたいな感じ。
意味合いとしては、まず、教会などでよく使用されるステンドグラスは精神性の象徴。3つあるうちの1つが壊れちゃってるっていうのは、精神的にすごい打撃をくらって価値観が崩壊しちゃうような経験をする、っていう。はい、もうここですでにリチャードやん! な内容ですねー。
そして、3つのうち2つが残ってるのは、その価値観が崩壊しちゃうような経験を通じてようやく本当の意味で前を向けますよ、っていう意味も含んでいるのだったりして。ほらほら、思いっきりリチャードやん! でしょう。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
もうね、このことに気がついたとき、私は大笑いと同時に、辻村七子先生ってばすご過ぎ! と感動してしまった。ここまできっちりキャラ設定してあったんだ、って。きっちりキャラに合わせた誕生日を設定して、しかもその誕生日もそれぞれお話の中ではっきり意味のある位置づけで出てきたしねえ。
いやーなんかこう、隠しネタに気がついてすっごい得したような気分。たまたま私は、正義の太陽と同じおうし座23度に天体(太陽ではない)を持ってるから気がついたんだけどね。そうでなきゃまず気がつかないでしょ、こんなネタ。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
ついでに言うと、太陽がその人の人生目的を示しているのに対し、実際にどういう着地のしかたをするのかっていうのは、ホロスコープ上の土星の位置と状態で判断するのね。
太陽と土星の位置関係に大きなズレがあると、本人が思い描いていた人生とはまったく違う人生になりましたって状態に、ほぼなっちゃう。しかも、そういう人は全然珍しくない。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
正義はいま、緊急避難的にスリランカで宝石商見習い(仮)をやってて、2年後にはまた国家公務員試験を受けようかって考えてる、かなり宙ぶらりんな状態なわけだ。でも、ここに居れば必ずリチャードと会える、その場所が着地点でもういいんじゃないのかな。まあ、正義の場合はそもそもが「宝石店」なんだし。
どこに、どんな状態で着地するかって、宙ぶらりんな状態に陥った人ほど真剣に悩むよね。そして必死に、自分の着地点を探す。でも結局のところ、成り行きだろうがなんだろうが、降りたところが着地点でいいんだよ。
降りてから駄目だと思っちゃったら、そこから先は、自分の足で歩いて行けばいい。たとえその先が、自分が最初に思い描いていた場所とは違っていても。本当に、それだけなんだ。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
人生は思い通りにならないことばかりだけれど、それでも歩いていればいつか、どこか自分の場所にたどり着く。
ときどきは暗いところに座り込んで、ただ密やかに息をするしかできないこともあるけれど、それでも自分で手を伸ばし、歩いて行きさえすれば、必ず誰かに出会うから。自分を助けてくれる誰かに。そして、自分が助けてあげられる誰かに。
ホント、この『宝石商リチャード氏の謎鑑定』って、そういう物語だよね。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
さて、3つのうち1つのステンドグラスが壊れちゃったリチャードは、本当の意味で前を向いて歩いていくために、これからその壊れたステンドグラスと向き合う必要があるみたい。
自分の中の、一番美しかったものの残骸と向き合うのは、本当にしんどいと思う。でも、そのときが来たんだよね。正義と出会ったことで、向き合えるそのときがいま来たんだよね。
さあ、これからリチャードのどんな過去がほじくり返されちゃうのかな。ふふふふ、読者はいじわるだ。それでは次の第8集『夏の庭と黄金の愛』へと進みましょう。感想はこちらですよーん。
※追記:ジェフリーの誕生日、6月28日について。
6月28日の太陽はかに座6度か7度(年によって1度前後の誤差あり)。かに座6度の持つ意味は「Game birds feathering their nests.」 直訳すると、猟鳥が巣を作っている、っていう感じ。
猟鳥っていうのは狩猟の対象になる鳥のことで、狩られることが前提でその鳥はせっせと自分の巣を作ってるのね。そこに示されているのは、自分を犠牲にしても自分の家族や大切な相手が安心して過ごせる場所=巣を必死に作っている、っていうような意味。
もうね、これがどれほどジェフリーなのかは、第2部完結になる第10集『久遠の琥珀』を読むとめちゃくちゃ実感できますよー。
![]() |
コミック版もありまーす♪
宝石商リチャード氏の謎鑑定 1巻 (ZERO-SUMコミックス)
アニメのBlu-ray・DVDもあるよ♪
宝石商リチャード氏の謎鑑定 Blu-ray 第1巻
★『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きすぎて、既刊9冊全て1冊ずつ感想を、それぞれ4000字以上書くという暴挙に飽き足らず、『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きな人ならきっと好きだろうと思ったおすすめ漫画作品をまとめてしまいました(;^^)ヘ..
いずれも、なんらか特殊な事情を持つ相手を、当たり前に人として尊重し大切に付き合っていく誰かの話、っていう感じです。
こちらはBL系。でも基本的にエロなし。1巻完結が2作品と、連載が始まったばかりでまだ1巻しか出てない作品1つ。
こちらはBLじゃない系。青年漫画、ファンタジー、少女漫画と、まあ節操ナシというか。最大3巻までで、読みやすい作品ばかりだと思います。
宝石商リチャード氏の謎鑑定 紅宝石の女王と裏切りの海 (集英社オレンジ文庫)
宝石商リチャード氏の謎鑑定公式ファンブック エトランジェの宝石箱