辻村七子/著・集英社オレンジ文庫/刊

 

ネットでアニメ化のニュースを見て興味を持ち、早速電書で購入して読んでみたんだけど、当たりだった。それも大当たり♪

物語は、都内在住の大学生・中田正義(ナカタ・セイギ)がバイト明けの深夜、酔っ払いに絡まれていた外国人男性を助けるところから始まるんだ。

助けられた英国籍の金髪碧眼男性が、タイトルにもあるリチャードなんだけど、これがまた「全てのパーツを世界で一番美しい人間から集めてきて、奇跡的なバランスで調和させたような生き物」だったんだよね。

要するに顔面偏差値最強、正直人間やめてるレベルで、ただもうそこにいるだけで世界を凌駕してしまいそうな生きる宝石なみの美貌の持ち主だったの、リチャード・ラナシンハ・ドヴルピアン氏は。

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このリチャード氏、これまたタイトル通りに職業は宝石商。生きる宝石が本物の宝石を売買することを生業としてるっていう。そんでもって、いったい何カ国語をしゃべれるのかもわからないという超才媛。いや、男性だから超才人か。

もちろん日本語も、ペラペラなんてレベルじゃなくて、いや日本人でもそんな複雑な単語を的確に使ってしゃべるの無理だろ、なほど。そしてまあ、宝石のことならあらゆる知識に基づいた営業トークを、完全無欠な美貌の微笑みのもと、いっくらでもかませてしまうという、ねえ。

その超絶美貌のリチャード氏を偶然助けた正義くんは、思い切って彼にあるお願いをするんだ。自分が持ってる唯一の宝石の、鑑別をしてほしい、と。

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で、ここからはネタバレです。

正義の持っていた唯一の宝石は、なんと盗品。それも自分の実の祖母、正義が誰よりも大好きだったばあちゃんが、とある女性の手からすり盗ったものだっていうことを彼は承知してた。なのに、リチャードにちょっとばかり嘘をついて鑑別を依頼したんだよね。

ふだんは現金と腕時計しか盗らず、しかも盗った現金のうち2割は残すっていう自分の流儀を貫いていた凄腕の女掏摸だったばあちゃんが、まるで魔が差してしまったかのように若いお嬢さんの手からすり盗ってしまったのは、ピンク・サファイアの指輪。

ばあちゃんは、返そうとしたんだよ。その指輪は婚約指輪で、そんな大事なものをなくしてしまったからには両家に顔向けできないと、すり盗られたお嬢さんが電車に身を投げたと聞いて、慌てて返そうとしたのに。

なのに、返そうと慌てていたまさにそのとき警察に逮捕されて、ばあちゃんは5年間服役した。掏摸としての罪を償って戻ってきたばあちゃんの手に残ったのは、そのピンク・サファイアの指輪ひとつだけだったっていう。

幸いそのお嬢さんは一命をとりとめたようだったけれど、返すことは叶わず、償うことも叶わなかった。それでもばあちゃんは、自分が犯した罪から目を背けることなく一生背負って生き、そして死んでいったんだよ。

正義はそんなばあちゃんが大好きで、誰よりも尊敬していた。だから、もう終わりにしてあげたかったんだ。ばあちゃんが背負い続けたその罪を。その指輪を、もとの持ち主に返すことで。

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これがこの『宝石商リチャード氏の謎鑑定』の第1話『ピンク・サファイアの正義』のあらすじなんだけど、この第1話にこのシリーズ作品のすべてが凝縮されてる気がする。

掏摸はもちろん犯罪で、やってはいけないことだよ。それでも、正義のばあちゃんにはそれ以外の選択肢がなかったんだ。

戦後の、高度経済成長期の日本で、取り残されてしまった「弱者」であるばあちゃんが、必死に生きて必死に娘を育てるために、極限まで追い詰められやむにやまれず選んだのが、掏摸になることだったんだから。

だから、ばあちゃんは自分がしてきた「悪いこと」の「報い」を、正面から受けとめた。

それは自らその罪を背負い続けることと同時に、たった1人の娘であるひろみ(正義の母)から、生涯許されることがないという「報い」。

女手ひとつで我が子を育てるために、追い詰められてやむにやまれず始めた掏摸だったのに、その我が子からは生涯許されることはない。ばあちゃんは、その事実から逃げなかったの。

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孫である正義は、それ以外どうしようもなかったんだ、ばあちゃんはそのとき自分ができることを精いっぱいやった、その結果なんだからと思ってしまう。そしてそんな悲惨な結果から逃げることなく、覚悟を持って生涯背負い続け、死んでいったばあちゃんが大好きで、誰よりも尊敬している。

だけど、ばあちゃんの娘で正義の母であるひろみは、ひろみだけは、それを許してはいけない。人様から盗んだお金で自分が育てられたことを、決して許してはいけない。だから、ひろみは自分の母を決して受け入れない。受け入れてはならない。それもまた、壮絶な覚悟なんだ。

犯罪という間違ったことをしてきたばあちゃんが、ひたすらに貫いたものは何だったんだろう。そして、ばあちゃんが受けた本当の「報い」は、いったい何だったんだろうか。

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犯罪は明らかに悪いことで間違ったことだよね。でも、そこにいる当事者にとってそれは、単純に白黒で塗り分けられるようなものなんかじゃなかったりするのかもしれない。

世の中には、「正しいけど正しくないこと」や「間違っているけど間違っていないこと」が、実はいっぱいあふれている。

それは、自分に都合良くものごとを正当化するっていう意味じゃない。どれだけ正しいことであっても、それが自分にとって本当のことでなければ、ただの嘘でしかないっていうことだよ。

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第2話の『ルビーの真実』でも、そのことが描かれてる。ルビーの持ち主である彼女は、「正しい」人生を送らなければならないと自分を追い立てた。7年間付き合いともに暮らしてきた同性の彼女と別れ、世間では当たり前に「正しい」とされていること、つまり男性と結婚しようとした。

でも、彼女にはどうしてもそれができなかった。普通であること、正しい人生を送ること、それができない自分を嫌い蔑み、必死になって自分を追い詰めていったけれど、どうしても、どうしても、彼女は「正しい」人生を受け入れることができなかった。

だって彼女にとって、男性と結婚し子どもを産んで育てる人生なんて単なる絵空事、つまり嘘でしかなかったから。たとえ1千万円のピジョン・ブラッドを贈られても、彼女は自分を偽り続けることができなかった。

第3話の『アメシストの加護』でも、第4話の『追憶のダイヤモンド』でも、宝石はその持ち主の本当の望みを映し出してくれる。

どれだけ正しいと頭で理解していても、自分の本当の望みがそこにないのであれば、その正しさはやっぱりただの嘘でしかないんだ。

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人間って、意外と自分の本当の望みを自覚できないもんなんだよね。ただそれは、まったく思いも寄らないというよりは、どこかでわかってはいるんだけど、それを認めることができない、って場合がかなり多いと思う。

それはやっぱり、自分の本当の望みが「正しい」ことなのかと、無意識のうちにブレーキをかけてしまうことが多いからだろうね。

自分が本当にそれを望んでいるからこそ、周囲に否定されたくない、できるなら周囲に受け入れられ祝福してもらいたい。誰しもそう思ってしまうから、否定されにくく受け入れられやすい=正しいということを、基準にしようとしちゃうんでしょう。

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自分のばあちゃんが犯罪者であることを承知の上で、それでも俺はばあちゃんが大好きだ、ばあちゃんを尊敬していると言い切る中田正義は、自分に対してあまりにも素直で、正直すぎる。

だから、これは正しくない、俺は間違ったことをしている、と頭でわかっているのに、突っ走っちゃう。それでも、突っ走った先で正義が得る結果が、たいていそう悪いものでないのは、やっぱりそこにだけは嘘がないからでしょう。

正しくないかもしれない。間違っているのかもしれない。でもこれは俺にとって本当のことだから。俺にとっての「正義」だから。その誠実さが、紆余曲折しなからも相手に伝わるところを、さまざまな宝石を絡めて描いていくこのシリーズの筋立ては、読んでいて本当に楽しい。

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ただ、あまりにも素直で正直で誠実な正義くんは、誰に対しても実に無自覚に自分の「本当」を投げつけちゃうもんだから、いろいろと弊害もあったりするんだよね。しかもまあ、正義ってば、いろいろ抜けまくってるうっかりさんな傾向があるようで。

その弊害を思いっきり被ってるのが、彼の雇い主となったリチャードなんだけど。お前はしかめっ面してるときでもびっくりするほどいい男だとか、感動的に美しくなきゃきれいだなんて言わないだとか、本当にこれっぽっちも他意はなく、ただもう本気でそう思ってるからってだけで、正義ってばリチャードの美貌を飽きもせずに褒め称えまくっちゃうんだよ。

しかもブライダルフェアをやってるデパートの宝飾店に、1人じゃ入りづらいからとリチャードをひっぱっていき、さんざんダイヤモンドのエンゲージリングを品定めして、満面の笑顔の店員さんに思いっきり誤解されてるのに、正義くんだけはこれっぽっちも気づかないという斜め上っぷり。他意がなさすぎるにもほどがある。

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さらにはことあるごとに、リチャードのどういうところが好きだとか尊敬してるだとか、容姿だけじゃなく中身のこともこれまた一切の他意なくぽろぽろと言っちゃって、だからもっと仲良くなりたいんだと、ストレートに「好き」投げつけまくっちゃうんだよねえ。ホンット、正義くんってば恋に関してはビビりまくりの超ヘタレのくせにねえ。

そのあまりにうかつで率直すぎて、嘘がないだけに始末が悪い正義くんの波状攻撃に、必死に耐えるリチャードが可愛すぎる『ローズクオーツに願いを』がボーナストラックのごとく収録されてるところがまた、サービス満点で楽しい1冊でしたw

さあて、さくっと次の第2集『エメラルドは踊る』を読んじゃおうね。って、読んだ感想もさくっと書いちゃったよーんw

【小説感想】宝石商リチャード氏の謎鑑定 エメラルドは踊る

シリーズ既刊感想一覧

コミック版は電書にも特典もりもり( ✧Д✧) カッ!!



宝石商リチャード氏の謎鑑定 1巻 (ZERO-SUMコミックス)

 

10巻発売!2020年6月19日です!
限定版は予約必須!


アニメのBlu-ray・DVDもあるよ♪

宝石商リチャード氏の謎鑑定 Blu-ray 第1巻

★『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きすぎて、既刊9冊全て1冊ずつ感想を、それぞれ4000字以上書くという暴挙に飽き足らず、『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きな人ならきっと好きだろうと思ったおすすめ漫画作品をまとめてしまいました(;^^)ヘ..

いずれも、なんらか特殊な事情を持つ相手を、当たり前に人として尊重し大切に付き合っていく誰かの話、っていう感じです。

『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きな人におすすめの漫画①


こちらはBL系。でも基本的にエロなし。1巻完結が2作品と、連載が始まったばかりでまだ1巻しか出てない作品1つ。

『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きな人におすすめの漫画②


こちらはBLじゃない系。青年漫画、ファンタジー、少女漫画と、まあ節操ナシというか。最大3巻までで、読みやすい作品ばかりだと思います。


宝石商リチャード氏の謎鑑定 (集英社オレンジ文庫)


宝石商リチャード氏の謎鑑定公式ファンブック エトランジェの宝石箱

 

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