白浜鴎/著・講談社モーニングKC

 

作者の白浜鴎先生はイラストレーターとしても活躍されていて、とにかく絵の完成度が高いので有名なのがこの『とんがり帽子のアトリエ』。魔法使いっていうファンタジーにぴったりな、中世ヨーロッパの版画を連想させる独特のタッチで描きこまれた絵は、ホントにすべてのコマをひとつひとつ切り取ってランダムに並べても楽しく鑑賞できるレベルだもん。

でもそれだけじゃない。漫画としての文法もしっかり構成されていて、すごく読みやすい。きっちり描きこんであるけど、描きこみ過ぎてなくて、コマのつなぎ方やページのレイアウトにいろんな遊びがあるのに全体の流れが滞らないっていう、漫画は絵で読むっていう人にはたまらない作品。

私も正直、絵を楽しむために読んでたんだよね。最初のうちは。あとは単純に、キーフリー先生が好みだったのでw でも読み進んでいくうちに、これは「物語」としてもかなりきっちり作り込まれた作品だぞ、っていうのがわかってきて、いままた単行本を読み返してるってトコなのですよ。

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さて、ここからネタバレ。

1巻から読み返してみてつくづく思ったのは、主人公のココはいったい「何者」なのか、ってこと。

なぜココは、お城のお祭りで仮面をつけた魔法使いから魔法の絵本を買ったのか。もっと正確に言うと、仮面をつけた魔法使いは禁止魔法の描かれた本をなぜココに、それもおそらくココだけに、売ったのか。

でなきゃ、一つ目の仮面をつけた魔法使いがココに向かって「きみは私たちの希望だ」なんて言わないよね。「他の子に用はなかったんだけど」とまで言ってるしね。

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最初に登場したときのココは、片田舎の、それもどうやら集落からちょっと外れた一軒家に仕立屋のお母さんと2人きりで暮らしている、魔法使いに憧れている普通の女の子、なんだよね。

ココが魔法使いに憧れているのも、どうやらその魔法の絵本を手にしたおかげっぽいよね。たぶんそれまでは、まだココが幼かったせいもあるんだろうけど、魔法や魔法使いっていうものに対して特別な感情は持ってなかったっぽい。

でも魔法の絵本のおかげで魔法に興味を持って魔法使いに憧れて、だけど魔法使いに生まれた人じゃないと魔法は使えないんだとお母さんにさとされて、これはもうただの憧れで終わるんだろうなってココ自身がどこかで思い始めてる、そんな状況。

そこにたまたま、本物の魔法使いであるキーフリーが現れ、自分の興味と憧れを捨てきれなかったココが魔法の現場をのぞき見してしまったことで、すべてが動き出した……それがこの物語の始まり。

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この世界では、魔法は誰でも使える。必要な道具を用意し、その使い方を間違えなければ。でも、誰でも使えてしまったせいで魔法がどんどん悪用され、世界は取り返しのつかない方向へ進んでしまったという過去がある。

本当に取り返しがつかなくなる一歩手前で踏みとどまった一部の人たちが、自ら魔法使いを名乗り、特別な人間にしか魔法は使えないということにした。ほかの人たちから、魔法の記憶を奪うことによって。

そしてその秘密を守れる弟子にだけ、魔法の使い方を教えて伝えることにした。同時に、魔法使いたちは使ってはいけない「禁止魔法」を取り決め、魔法を悪用しないよう自分たちを戒めた。

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それでもやっぱり、秘密はどこかから漏れてしまう。知ってはいけない秘密を知った者の記憶を消すことで、魔法使いたちは秘密を守ってきた。けれど、最初から秘密を知っていて、その上で禁止してある魔法に手を染めてしまった者たちの存在には、どうやら手こずっているらしい。

その禁止魔法に手を染めてしまった者たち=「つばあり帽」が、なぜココにこだわるのか。魔法の秘密なんて何も知らなかった「知らざる者」であり、普通の女の子でしかないはずのココに。

禁止魔法を使う「つばあり帽」の者たちは、単に禁止されてるってことに誘惑されて手を染めたってだけじゃなさそうだ。なんらか明確な意図があって、禁止魔法を使ってる。そのなんらかの意図に、ココが係わってる。たぶん、そういうことなんだと思う。それが、この物語のいちばん太い縦糸なんだよね。

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ココは、魔法に憧れていただけの普通の女の子なんだけど、とっても賢い子だ。自分がしてしまったことの責任と向き合うだけの勇気と根性もあって、しかもすごく前向き。どんなときも、ものごとのいい面を見つけて、いま自分ができることを考えて工夫できる。

それができるのは、ココがものごとの悪い面からも目をそらしてないから。「できない自分」から目をそらしてしまったら、「できる自分」も見えなくなる。ココはそれがちゃんとわかってる。本当の賢さって、それだよね。

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それにキーフリーも、どうやら何か事情があってココを利用しようとしてるようなんだけど、そこに悪意は感じない。石になってしまったお母さんをもとに戻したいというココの思いにも、ちゃんと寄り添っていこうとしてるって感じられる。

なにより、ホントに「先生」なんだよね、キーフリーって。ココを含め子どもたちに魔法を、魔法の楽しさやすばらしさを教えてあげるのがホントに好きなんだろうなっていうところがちゃんと描かれてるので、読んでて安心感がある。

そしてココの姉妹弟子にあたる女の子たち3人については、2巻以降にもっと詳しく描かれていくことになりそう。とりあえず、ココに敵意剥き出しのアガットがどう転んでいくのかが楽しみだわ。

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雰囲気たっぷりで洗練された美しい絵、それ自体で完成されちゃってる印象を持ちやすい『とんがり帽子のアトリエ』だけど、描きこまれているのは絵だけじゃないみたいだよ。物語も、登場するキャラたちも、かなりしっかり描きこまれているのが、読めば読むほどわかってくる。王道のハイファンタジーとして本当にオススメの作品。

とりあえず1巻では、その絵を含めてこの作品で描かれる魔法の世界に浸ることができればOK。物語は始まったばかり。って、ココたち絶体絶命状態で1巻が終わっちゃってるし、さくさく2巻に進みましょう。


とんがり帽子のアトリエ(1) (モーニングコミックス)

 

 

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