辻村七子/著・集英社オレンジ文庫/刊

 

一番美しい人類である美貌の宝石商・リチャードと、自分に正直すぎてうかつさ満載の大学生・中田正義(ナカタ・セイギ)の物語、第2集。

この第2集も、表題の『エメラルドは踊る』を含めた4つのお話と、ボーナストラックのような掌編1つという構成。いずれのお話も、タイトルに掲げられた宝石を絡め、そこに映し出されるそれぞれの本当の望みが描かれてる。

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それぞれの望みを丁寧に解きほぐしていくリチャードは、相変わらず最早人間をやめてるレベルで実在していることすら信じられないほどの美貌なんだけど、年齢不詳で自分の経歴についてもほとんど話さない。わかっているのは英国籍で、祖母がスリランカ出身だっていうこと。あとは、信仰にも等しいロイヤルミルクティー過激派であるってことくらい。

祖母がスリランカ出身だっていうんだから、リチャードのミドルネーム「ラナシンハ」はシンハラ語かタミル語の名前だっていうのはわかる。でもファミリーネームのドヴルピアンは、普通に考えてフランス系の名前なんだよね。Lupinと書いてルパンと読むんだよーんっていうフレンチ感たっぷりな、ド=ヴルピアン。実際『エメラルドは踊る』でもフランス人じゃないのかって指摘されてるし。

リチャードがさまざまな宝石にまつわる謎を解いていくっていっても、リチャード自身が謎だらけなんだよね。

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彼に雇われたアルバイトの正義くんは、それでも日々飽きることなく奇跡のようなリチャードの美貌に感動し、差別や偏見を愚かだとバッサリ切り捨てて誰に対しても公正に接する「変わってるけどいい感じの兄貴」みたなリチャードをどんどん好きになり、なんとかもっとリチャードのことを知りたい、近づきたいと思ってる。

そして頭脳明晰すぎて人間離れしたクールな微笑みを絶やさないリチャードが実はかなり情に厚く、なによりスイーツに関しては3割増しで子どもっぽくなっちゃう甘味大王であるところを正義くんは的確に突いて、この第2集ではついに餌付けに成功しちゃう。

その美しさはすでに、朝日に輝く水平線や白夜にきらめくオーロラのような自然現象と同じだろうとすら目されるリチャードは、正義の手作りプリンと牛乳寒天で陥落しちゃうのでした。必死にデレを隠そうとするリチャード、可愛すぎw

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ますます眉目秀麗頭脳明晰冷静沈着だけどすっかり餌付けされちゃった可愛すぎるリチャードも、相変わらず超ストレートで剛速球のデッドボールを投げ続ける豪腕の正義くんも堪能できる第2集なんだけど、一方ではしっかり宝石の持つ負の側面も描かれてる。

で、こっからまたネタバレなんだけど。

表題の第3話『エメラルドは踊る』では、宝石がその普遍的な価値ゆえに犯罪においてすら対価として利用されるケースも珍しくないことが語られる。また、第1話の『キャッツアイの慧眼』では、資産価値としての宝石というありかたも描かれる。

そして第4話の『巡りあうオパール』では、特別な価値を持つ宝石であるからこそ人の不信をあおり、人がいがみあう原因になってしまう場合もあるのだということさえ描かれていく。そこでは、正義が精いっぱい誠実に手渡そうとする、彼にとって嘘のかけらもない本当のことすら、拒絶されてしまうんだ。

ただただ美しく、見る者に華やぐ気持ちを提供してくれるだけが、宝石の価値じゃない。輝く美しさには影がかならずつきまとうことも、また事実なんだよね。

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そして生きる宝石のごとく人間離れした美貌を持つリチャードも、自身のその容姿をはっきり疎んじていることが、第2話の『戦うガーネット』では垣間見える。

外見だけで差別されることがどれだけ屈辱的なことなのか、それが理解できる人は決して少なくないと思う。なのに、その差別のさいに投げつけられる感情の種類がちょっと違うだけで、人の目は曇ってしまいがちだよね。

それが嘲笑や蔑み、哀れみなどといったあからさまな拒絶の感情であれば、たいていの人はそれを敏感に差別だと受け取るでしょう。でも、逆の感情も実は同じことなんだよ。

たとえそれが賞賛や崇拝、憧れといった種類のものであっても、上っ面だけで相手のすべてを決めつけてることに変わりはない。自分の勝手な決めつけに相手を閉じ込めようとするような、人を人として扱っていない一方的な感情である限り、それが蔑みだろうが賞賛だろうが同じ差別でしかないんだ。それどころか、相手の人としての尊厳を踏みにじる暴力ですらある。

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あまりにも激しすぎる美貌を持って生まれたリチャードは、ただそこに居るだけで一斉放火のような暴力を浴び続け、常に戦い続けるしかなかったんだろうね。

それでもなお、宝石商という職業を選んだリチャードは、相当な覚悟をしてきたんだと、想像できる。誰もが感嘆する美しさを否定することなく、そこにまつろうさまざまな影も呑み込んで、見せかけの美しさではないあなたにとって本当の、唯一無二の美しさをぜひ見つけてください、と言い続けるんだと。

だからこそリチャードは、目に見える美しさを慈しみながら、常にものごとの本質を見抜こうとしてる。差別も偏見も愚かだと一言のもとに切り捨て、その美しい青い瞳でまっすぐに相手を見つめるんだよね。

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でもって、そういうあまりにプロフェッショナルで凜としたたたずまいのリチャードと、正義にすっかり餌付けされちゃって差し出されるスイーツにまったく逆らえない可愛すぎるリチャードのギャップが、実にいいバランスで描かれてるのが本当に楽しい。

今回もボーナストラック的に収録されてる『ユークレースの奇縁』で見せるリチャードのツンデレぶりには、ホンットにじたばたしちゃうよぉw

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それに、どれだけ注意しても脳天気なまでに自分のうかつさをばら撒きまくり懲りもせずにデッドボールを投げ続ける正義に対して、リチャードが本当はどう思っているのかも、初めて口にしてくれるしね。

正義が、間違っているかもしれないと思いながらも自分にとっての正しさを貫こうとしてきたのは単に臆病なだけだからと、大好きな相手にがっかりされるのが怖いからだけなんだと嘆き悲しみ、自分を見失いかけたとき、リチャードは告げる。あなたは間違っていない、と。あなたのありかたは尊い、と。

さてさて、これからこの2人はどうなっていくのか。リチャード自身の抱える謎について、正義が答えを得る日が来るんだろうか。来るんだろうな。いや、来ないとまずいでしょ。またもやさくっと次に進まなければw ということで第3集『天使の石アクアマリン』の感想はこちらから。

【小説感想】宝石商リチャード氏の謎鑑定 天使のアクアマリン

シリーズ既刊感想一覧

★『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きすぎて、既刊9冊全て1冊ずつ感想を、それぞれ4000字以上書くという暴挙に飽き足らず、『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きな人ならきっと好きだろうと思ったおすすめ漫画作品をまとめてしまいました(;^^)ヘ..

いずれも、なんらか特殊な事情を持つ相手を、当たり前に人として尊重し大切に付き合っていく誰かの話、っていう感じです。

『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きな人におすすめの漫画①


こちらはBL系。でも基本的にエロなし。1巻完結が2作品と、連載が始まったばかりでまだ1巻しか出てない作品1つ。

『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きな人におすすめの漫画②


こちらはBLじゃない系。青年漫画、ファンタジー、少女漫画と、まあ節操ナシというか。最大3巻までで、読みやすい作品ばかりだと思います。

 


宝石商リチャード氏の謎鑑定 エメラルドは踊る (集英社オレンジ文庫)


宝石商リチャード氏の謎鑑定公式ファンブック エトランジェの宝石箱

 

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