辻村七子/著・集英社オレンジ文庫/刊

 

たとえ目を閉じていても脳裏に浮かぶその姿はただひたすら美しい宝石商リチャードと、美しいと一生言い続けるなんて言われるまでもなく当たり前な宝石商見習い(仮)中田正義の物語第10集。

そうだね正義、それはもう「美しいから好き」よりも「好きだから美しい」があふれかえっちゃったってことだからね。10年経っても100年経っても、正義がリチャードを好きでい続ける限り、リチャードはずっと永遠に美しいんだよね。

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ってことで、第2部完結です。第3部ももちろんあるそうだけど、ホントにこれで一区切りって感じですね。はー、すべてはあるべきところに還る。ちゃんと、収まるべきところに収まるんだよね。自分の本当の望みから逃げず、恐れず、きちんと向き合い続けていさえすれば。

で、もう最初から盛大にネタバレしていきますからねーw いやもうだってヘンリーが! ヘンリーがラスボス化してるんだもん! よく踏ん張ったよお兄ちゃん。それにヴィンスが超グッジョブ。ヴィンスもがんばったよ、偉かったよ。そんでもってジェフリー。あーもー幸せになるんだよ、ジェフリー。

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一度起こってしまったことは、もう何をしても元には戻らない。そんなこと、誰でもみんなわかっていることであるはずなのに、それを「はいそうですか」とは受け入れられないから、みんな苦しむんだ。

たいていは、そのときその場でちゃんとできなかった自分がみっともなくて情けなくてつらすぎて、全部なかったことにしたくなっちゃうんだよね。そうやって逃げる人は実際に大勢いて、場合によってはそうやって逃げることでしか自分を守れないことも確実にあるんだけど。

でもやっぱり、一度起きてしまったことは決して「なかったこと」にはできないんだ。どれだけ時間がかかっても、自分がしてしまったことと向き合って、過去の自分ではなく、いまの自分に何ができるのかをきちんと考えなければ、前へ進むことはできない。前へ進んでるフリはできても、必ず同じところへ戻ってしまって、同じ過ちを犯し続けるだけになっちゃうから。

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ヘンリーは、例のクレアモント家の遺言で真っ先に脱落しちゃったんだよね。そのために弟のジェフリーを追い詰めてしまい、弟に等しい従弟のリチャードからあらゆるものを奪ってしまった。

そのことが、ヘンリーは本当につらくて、なにより最初に壊れて脱落してしまった自分が情けなくて恥ずかしかったんだよね。でもそこからヘンリーは、恥をまき散らしながらも前に進むことを選んだんだ。そうしなければ、自分のせいで犠牲になってしまったジェフリーもリチャードも決して救われないって、ヘンリーにはわかってたから。

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そんでも「恥をまき散らしながらも前に進む」って、どんだけ覚悟が必要なんだか。特にお貴族さまなんて体面と外聞がすべてなんだよ、本当に。そういう意味じゃ、執事のローレントが執着した部分って間違ってはないと思うんだ。

でもね、ヘンリーは何百年も積み重ねられてきた伯爵家の体面と外聞よりも、自分の家族のほうが大切だったの。

だいたいクレアモント家のご先祖さまも、本当は家族のほうが大切なのに、貴族としての体面と外聞に縛られて抜け出せなかったがために、あのとんでもない遺言を作っちゃったわけだからね。同じ過ちは繰り返すまい、ってヘンリーは勇気をふり絞ったんだよね。

だからヘンリーはヌワラエリヤにやってきた。自分の過ちを償うために。自分の弱さを乗り越えるために。可愛い弟たちを救うために。最大の準備をして、切れるカードはすべて用意して。いやーもうヘンリーってば惚れちまうぜっ! ていうほど大活躍よw

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オクタヴィアのことだって、彼女はリチャード先生が好きで好きで大好きだからこじらせちゃってて、そのこじらせちゃった原因を作った、というよりもう意図的にこじらせてくれちゃったのがクレアモント家の執事だったわけだから、ヘンリーとしてはやっぱり自分の責任だって判断したわけだもんね。

そんでもオクタヴィア自身はもう、リチャード先生に対する恨みっていうか自分が望んでいた通りにならなかったことへの怒りや悲しみは、ずいぶん解消されてたよね。ただもう、自分自身の抱えるあまりに深い絶望を持て余して、それを誰かか何かにぶつけてしまいたいだけっていう状態だった。だからまあ、それを正義にぶつけるためにヌワラエリヤにやってきたんだよね。

ぶつけられちゃった正義は、オクタヴィアの絶望を理解できちゃったから安易な言葉も態度も返せなくてちょっと途方に暮れちゃった。でもそこで、ラスボス化したヘンリーと、たぶん誰よりもオクタヴィアの気持ちと立場が理解できちゃったヴィンスっていう、両サイドからのがっつりサポートが得られちゃったんだよねえ。

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いやーヴィンス、いい仕事したわ。本当によくやってくれたよ、ヴィンス。もちろんヴィンスもリチャード相手に「やらかした」過去があったからこそ、自分がやるべきことは何か、自分が本当にやりたいことは何かが、ちゃんとわかったんだよね。

ヴィンスが、ヴィンスだけが、オクタヴィアのことを、ただ当たり前に17歳の女の子として扱ってあげたんだ。

悲劇的な事故で両親をいっぺんに失ってしまった可哀想なお嬢さまでもなければ、財産も権力もあり余るほど持っている鼻持ちならないお嬢さまでもなく、いかにも17歳らしい傲慢さと潔癖さで自分自身を追い詰めて絶望の中で立ち上がれなくなっている、ただのゲーム好きの女の子として、ね。

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上からでもなければ下からでもなく、並んで一緒にゲームをやって、他愛もない会話をしながら教科書には載っていない日本語を教えてくれる、ちょっと年上の「友だち」。その存在が、どれほどオクタヴィアの救いになっただろう。

ヴィンスがそうやってオクタヴィアに寄り添っていたから、オクタヴィアはヘンリーが寄り添うこともとりあえず許したんだよね。それで高級避暑地の高級ホテルで貸し切りゲーム合宿になっちゃったんだけどさw

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自分にとって本当に大切なものを突然奪われてしまったときに覚える怒りと絶望って、周囲の人から施される哀れみや励ましによっていっそう深くなっちゃうんだよね。そう、哀れみや励ましなんて、上からの「施し」でしかないんだよ。

そういうとき、本当の意味で力になってくれるのは、奪われることで断ち切られてしまった日常を、ゆっくりとつむぎ直していくために寄り添ってくれる誰かなんだ。

ヴィンスに寄り添ってもらって、ゆっくり少しずつ立ち上がり始めたオクタヴィアは、きっとヘンリーの申し出を受け入れるよね。そしてそれからはヘンリーがオクタヴィアの家族として寄り添っていくんだよね。その新たな暮らしを、自分たちの日常にするために。

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そんでもってジェフリー。ああもうジェフリー。人身御供かよジェフリー。ホンットに正義と同感。間に合ってよかった。これ以上ジェフリーがみんなのために犠牲になっちゃってたら、もう取り返しがつかなくなっちゃってたよ。誰も救われなくなっちゃってたんだよ。

私は、自分を貶め傷つけ続ける流れに沈んで立ち上がれなくなっちゃってるのはヴィンスだと思ってたけど、違ったね、ジェフリーのほうだったねえ。

ヴィンスはちゃんと立ち上がって前へ進んでた。「自分がそうしたいから」って、ちゃんとオクタヴィアに寄り添ってた。でもジェフリーは、もーダメダメじゃん。そんなことしたって、ジェフリーの大切な人たちは誰も幸せになんかならないって、なんでわかんなかったの。

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そりゃあ確かに、体面と外聞がすべての伯爵家直系男子がカミングアウトするのは無理無理絶対無理、なんだろうけどさ。英国っていまなお厳然だる階級社会だからね、それはもう日本人の私らが想像するよりはるかに厳しく絶対的な禁忌扱いで、さらに宗教上の縛りだってあるだろうし。

おまけにジェフリーはそういうとこ、どうしようもなく要領が悪くてヘタレなんだもんねえ。それでもまあ、ヘンリーお兄ちゃんの決意と踏み出した一歩を目の当たりにして、ジェフリーも諦めたんだろうね。いやもう、諦めじゃなくて決意でいって欲しいけど、それはあのヘタレに望みすぎか。もーお願いしちゃうわヨアキムさん。ジェフリーをとことん幸せにしてあげて。ホンットにお願いします。

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そして正義。今回は正義がオクタヴィアに寄り添う前に、ヴィンスがすでに寄り添ってくれててヘンリーもこれから寄り添うって宣言してくれたから、そのお手伝いでなんとかなっちゃったね。ま、それもこれも、正義がずっとヴィンスにもヘンリーにも手を差し出し続けてきたからこそだったんだけど。

それにデボラもちゃんとした大人で、自分で自分にきっちり決着をつけて自分の足ですでに歩いてた。そういう「終わり方」に対して、正義が自分を卑下する必要なんてどこにもないんだけど、正義は自己評価が低いからねえ。こればっかりはしょうがないよねえ。虐待されて育ってしまった子は、どうしても自分の「価値」を測らずにはいられないから。

でもまあその都度、リチャードがゆっくりコースなり最短コースなりで思い知らせて差し上げますって言ってくれるからね。リチャードが、どれほど正義のことを尊いと思っているのかを、ね。だって、もう正義はリチャードの一部なんだもの。リチャードが正義の一部であるのと同じようにね。

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それでもさらに2年かけて、正義はようやく自分が収まるべきところを決めたわけだ。私ら読者はとっくに知ってたけどね、だって第1部が完結したとき『シンハライトは招く』で読んじゃってたもんねー。正義と、リチャードがその後どういう関係になっていくのかを。

たとえそれが、恋人だとか家族だとかといった具体的な名前のない、誰も知らない関係であったとしても、正義とリチャードにとっていちばん居心地のいい、いちばん自然な関係であるのならば、それでいいんだ。

本当にもう、ただそれだけだよね。ただそれだけが、とっても難しいんだけど。世の中の大多数の人たちは、自分が知っている名前をその関係に求めたがるものだし。それでも正義とリチャードは、その関係をずっと続けていけるよね。2人とも、お互いのことを誰よりも大切に思い、誰よりも尊ぶことができるんだから。

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では最後に、下村。好きだ下村晴良。めちゃめちゃ推しちゃうよ下村。ずっと、正義の友だちでいてね。ずっと、ヘンリーの友だちでいてね。1人では立ち上がれなくなって、うまく息ができなくなっちゃったとき、呑気な顔で当たり前に酸素を送ってくれる友だちでいてね。

辻村先生、第3部開始の前に、ぜひ下村の、ギター1本抱えて単身スペインへ渡っちゃった下村のスピンオフをお願いします~~~。

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なお、WEBコバルトに 『宝石商リチャード氏の謎鑑定』第2部完結記念 辻村七子&雪広うたこ突撃Q&A! が掲載されています。
こちらから↓読めまーす ╭( ・ㅂ・)و ̑̑ グッ !

http://cobalt.shueisha.co.jp/read/cat234/post-153/

 

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こちらはこの第10集『久遠の琥珀』が発売される前にWEBコバルトで発表された短編小説です。リチャードの香港時代、つまりヴィンスとのあれやこれやがヴィンス目線で語られる内容です。感想記事内にWEBコバルトへのリンクも貼ってあるので、未読のかたはぜひどうぞ。ヴィンスが何をやらかして何を悔い何を恥じていたのかがよくわかります。

【小説感想】宝石商リチャード氏の謎鑑定 龍の季節

そんでもってわーいわーい、辻村先生がご本人お誕生日9月24日に公開された短編小説に下村くんが登場しましたー!
こちらから↓読めまーすイェーイ( ^^)人(^^ )

Los amigos

シリーズ既刊感想一覧

コミック版もありまーす♪

宝石商リチャード氏の謎鑑定 1巻 (ZERO-SUMコミックス)

アニメのBlu-ray・DVDもあるよ♪

宝石商リチャード氏の謎鑑定 Blu-ray 第1巻

ドラマCDにはアニメ未収録のお話が入っている巻もあるようです。

【Amazon.co.jp限定】宝石商リチャード氏の謎鑑定ドラマCD 第1巻「追憶のダイヤモンド」(特典:オリジナルメガジャケット)

こんなのも発売されるんだ? リチャードさん、すごすぎー。

オランジュ・ルージュ ねんどろいどどーる 宝石商リチャード氏の謎鑑定 リチャード・ラナシンハ・ドヴルピアン ノンスケール ABS&PVC製 塗装済み可動フィギュア

 

★『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きすぎて、既刊10冊全て1冊ずつ感想を、それぞれ4000字以上書くという暴挙に飽き足らず、『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きな人ならきっと好きだろうと思ったおすすめ漫画作品をまとめてしまいました(;^^)ヘ..

いずれも、なんらか特殊な事情を持つ相手を、当たり前に人として尊重し大切に付き合っていく誰かの話、っていう感じです。

『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きな人におすすめの漫画①


こちらはBL系。でも基本的にエロなし。1巻完結が2作品と、連載が始まったばかりでまだ1巻しか出てない作品1つ。

『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きな人におすすめの漫画②


こちらはBLじゃない系。青年漫画、ファンタジー、少女漫画と、まあ節操ナシというか。最大3巻までで、読みやすい作品ばかりだと思います。


宝石商リチャード氏の謎鑑定 久遠の琥珀 (集英社オレンジ文庫)


宝石商リチャード氏の謎鑑定公式ファンブック エトランジェの宝石箱

 

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