辻村七子/著・集英社オレンジ文庫/刊

 

本当に人類なのか疑われてしまうレベルの美貌に明晰な頭脳を兼ね備えときどき可愛い甘味大王の宝石商・リチャードと、根本的に何かがズレたまま素直に正直にうっかりし続ける大学生・中田正義(ナカタ・セイギ)の物語、第3集。

てか、えーやっぱそっち? そっち行っちゃう? えーでもそうだよなあ、そういう話になっちゃうのかなあ、っていうのが読後の率直な感想。

さすがの凄腕宝石商リチャード氏も、音を上げちゃったってことかぁ。やっぱ、きゅんきゅん鼻を鳴らして尻尾ぱたぱたちぎれそうなほど振りたくりながら一直線に自分のところへ駆けてくるワンコの、好き好き攻撃をこれだけ受け続けちゃうとねえ。やっぱ、ねえ?

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しかもこの第3集では、きゅんきゅん鼻を鳴らして自分にまとわりついてくるだけだと思ってたワンコが、ご主人さまを守ってあげられるのは俺だけだとばかりに自分の前で足を踏ん張り、吠えたりうなったり頑張ってくれちゃってるし。

おまけに、どうしようもなく間が抜けてるそのワンコは、ワンコ自身がそうやって大好きなご主人さまにどれだけきゅんきゅんまとわりついていて、ツンデレご主人さまにどれだけ可愛がってもらってるかの自覚がまったくない。

さらにさらに最悪なことに、そのワンコはそれだけご主人さまに好き好き攻撃をかまし続けてるってのに、無邪気なまでに俺が好きなのはほかの人ですとのろけ話を垂れ流してくれちゃうんだから。

そりゃーもう、正義という名のワンコの飼い主リチャード氏としては、どうにもいたたまれなくもなるってもんだよねえ。最早苦行のレベル。で、とうとう限界まできちゃったワケか。

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まあこの第3集では、とりあえず正義の前でだけ白皙の面を崩してときどき可愛い甘味大王だったリチャードが、ほかにもいろんな顔を見せ始めてはいたんだよね。

さて、こっからはネタバレかな。

第2話の『危ういトルコ石』なんか、何かがリチャードの臨界点を超えちゃったらしく、いきなり大暴走だもんねえ。ふだんリードをつけてもらってるほうの正義が泡食っちゃう勢いで。これって絶対リチャードの過去に絡んでるよね。第4集以降伏線の回収はあるだろうか。って、ないと困る。

そんでもって問題の第3話『受けつぐ翡翠』。リチャード自身の謎=過去が、突然ドカンと落ちてきた。でも核心らしき部分は、ぼかされたまま。

ったく正義ってば、こんな出会い頭の事故みたいな状態で、リチャードが語りたくなかったエリアに踏み込みたくないなんてためらっちゃうし。リチャードのほうも、その核心について語ってしまうともう引き返せなくなると思ったからぼかしちゃったんだろうねえ。

それから第4話の『天使のアクアマリン』。うーん、これはどう転んでいくんだろう。正直、谷本さんのことはさくっと切り替えて終わりかなって思ってたんだけど。ここへきていきなり彼女の「顔」が見えてきちゃった。

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谷本さんって、正義が好きだ好きだ好きだって大騒ぎしてる絶賛片思い中の相手ね。大学の同級生で(学部は違う)ふんわりおっとり可愛い感じの女の子なのに、石のことを語り出すとまるで獲物を狙うスナイパーのような雰囲気を醸し出しちゃうニックネームはゴルゴ谷本。

って、それだけだったんだよね、第1集に登場してからずっと彼女は。このシリーズは正義の視点で語られてるのに、正義が見ている谷本さんの「顔」が、そこからこの第3集までまったく動かなかった。

だからもう、正義ってば思いっきり恋に恋する浮かれまくった男子大学生そのまんま、好きだ好きだって自分1人舞い上がってるだけで、ぜんっぜん彼女のこと知ろうともしてないし近づこうともしてないじゃん、としか思えなかった(ので、第1集・第2集の感想では谷本さんネタなし)。

だいたい、正義がうっとりと語る、キラキラ輝く天使の石アクアマリンのような女の子、なんて「ケッ」としか思わないでしょ。ただただきれいなだけの宝石なんてないんだよって、第2集で学んでこなかったのかお前は! って読みながら突っ込み入れまくり。

恋に恋する正義くんは、恋っていうのはこういうものって、自分の一方的なイメージを谷本さんに押しつけてガチガチに固めちゃって、それを勝手に自分のケースに収めてただ拝んでるだけなんだもん。それで告白とか、鼻で笑っちゃうわ。

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だって正義が本当に怖いのは、自分が谷本さんに拒絶されることじゃなくて、自分でガッチガチに固めちゃったキラッキラの美しいイメージを谷本さん本人に壊されちゃうことじゃないの? 告白できないんじゃなくて、告白したくないんだよ。

そういう意味では、第1話の『求めるトバーズ』に登場した田村夫妻、特に奥さまの萩乃さんが正義に指摘したことは、ホンットに含蓄あるよねえ。誰かを好きになり、好きになったその誰かと人生をともにするというのは、そういうことじゃないのよ、っていう。

谷本さん自身も、ずっと正義視点できれいなまんま飾ってあっただけなんだけど、ここへきて、おぉーやるなゴルゴ谷本、になっちゃった(あくまで個人の感想です)。自分は恋愛ってものがまったくわからないと正義に告げ、どうでもいい相手に親切を施して善人ぶることでストレス発散するっていう黒い自分を笑う谷本さん、とってもいいわ~♪

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でもホントにこれ、正義はいったいどうするんだろ。結局谷本さんに自分の気持ちを告げられなかったでしょ。彼女が結婚しちゃうと自分がつらいって言うけど、そのつらさがどこから来るのかわかってるんだか。

それが「恋」だと自分で決めつけちゃったとたん、勝手に谷本さんをきれいなケースに押し込んであがめ奉ってはしゃいでたのに、その谷本さんが自分以外の男の飾り棚に飾られちゃうのがつらいだけなら、もうやめとけとしか言えない。そういうものじゃないのよって、第1話で萩乃さんに言われたでしょ。

まったく、正義ってどうしてこう、うかつなんだか。

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勝手なイメージを押しつけられてケースに収納され飾られちゃうのって、リチャードに関して言えばもう人生ほとんどそればっかり、だっただろうね。生きる宝石完全なる美貌としてリチャードを自分の勝手なショーケースに収めて飾ろうとした人なんて、掃いて捨てるほどいたはずだから。

そういう「人間扱い」されない状況が嫌で嫌で、だからリチャードは絶対零度の氷壁を築いて完璧な笑みを常に浮かべ、誰にも踏み込ませないようにしてたのに。

なのに、あまりにうかつな正義くんは、ただ自分のリチャードに対する感情、単なる感謝や尊敬や一通りの好意だけではないもっと親しく細やかなその感情に、つける名前がわからなかったというだけで、絶対零度の氷壁さえガッツンガッツン破壊しちゃった。

正義は素直に、正直に、リチャードに向かって、お前は本当にきれいだ最高にいい男だ感動する美しさだと言い、お前のこと好きだし尊敬してるしときどき可愛い甘味大王だし、なんて言っちゃう。さらには、俺にお前の心配をさせろ、ってキレる。

まったくもって、嘘がないだけに始末が悪い。リチャード的には全部デッドボールなんだってば。それも、思いっきり超ストレートで剛速球の。

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いや、さすがにリチャード本人もマズイと思い始めてたはずだよ。だって、正義と2人きりのときにときどき可愛い甘味大王だったのはまだしも、この第3集ではもう人前で、タキシード姿の自分をなんで褒めないんだって正義に拗ねてみせたり、機嫌が悪くなったらすぐ食べろとかいがいしく世話を焼く正義が渡す飴を素直に受け取ったり。

絶対零度の氷壁から一歩も出てこない完全無欠の生きる宝石超絶美貌の宝石商リチャード氏しか知らない人たちが、そんな生身のリチャードを見ちゃったら、見てはいけないものを見てしまったとばかりに視線を泳がせるしかないよねえ。

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とりあえず、リチャードのほうはわかってる。自覚がある。このままではマズイって。だから逃げた。だけど、リチャードの中で完全に踏ん切りがついてるわけではないっていうことも、最後に収録されてる『傍らのフローライト』で描かれてる。この阿呆とさんざん正義を罵ってあおりたて、谷本さんのところへ蹴り出したっていうのにね。ホント泣けるわ。

あまりにもうかつすぎて自分だけがわかってないその感情に、正義がちゃんと名前をつける日はくるんだろうか。てか、ホントにどーすんだよ~。あーもう、もう、もう! 怒濤の展開間違いナシの第4集『導きのラピスラズリ』へGO!! だあああああ!

【小説感想】宝石商リチャード氏の謎鑑定 導きのラピスラズリ

シリーズ既刊感想一覧

コミック版は電書にも特典もりもり( ✧Д✧) カッ!!



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宝石商リチャード氏の謎鑑定 Blu-ray 第1巻

 

★『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きすぎて、既刊9冊全て1冊ずつ感想を、それぞれ4000字以上書くという暴挙に飽き足らず、『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きな人ならきっと好きだろうと思ったおすすめ漫画作品をまとめてしまいました(;^^)ヘ..

いずれも、なんらか特殊な事情を持つ相手を、当たり前に人として尊重し大切に付き合っていく誰かの話、っていう感じです。

『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きな人におすすめの漫画①


こちらはBL系。でも基本的にエロなし。1巻完結が2作品と、連載が始まったばかりでまだ1巻しか出てない作品1つ。

『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が好きな人におすすめの漫画②


こちらはBLじゃない系。青年漫画、ファンタジー、少女漫画と、まあ節操ナシというか。最大3巻までで、読みやすい作品ばかりだと思います。


宝石商リチャード氏の謎鑑定 天使のアクアマリン (集英社オレンジ文庫)


宝石商リチャード氏の謎鑑定公式ファンブック エトランジェの宝石箱

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